2008年10月31日
恵比寿物語 孤独編Ⅰ
孤独は優れた精神の持ち主の運命である。
ショウペンハウエル
恵比寿物語 孤独編Ⅰ
彼はここ恵比寿に来て初めて孤独を知った。
東京の春は伊豆の同じ季節とは思えないほど寒く
孤独は彼の神経をより鋭くとぎすませもしたし、
ひどくもろくもさせた。
それは広い荒野にぽつんと捨てられた
子猫のような誰かを恋慕う気持ちにも似ていた。
彼は恵比寿に来た19の春まで恋人という存在を知らない。
昭和52年(1977年)当時彼の周りで
恋人という存在を得ていた友人はまだいなかった。
31年後の現在(2008年)では考えられないくらい
その伊豆から来た青年たちはうぶであった。
恵比寿に来る3~4年前
かぐや姫の歌った『神田川』 大信田礼子の歌った『同棲時代』
東京を舞台にうたわれたその歌詞の言葉に
自分もここに来ればそんなほろ苦い青春が描けると信じていた。
しかしそこにはそのプロセスはまったく含まれていなかった。
恵比寿に来たばかりの彼はまず東京の孤独から知ることとなった。
その後荒波のように来る、
怒涛のような青春を彼はまだ知る由もない。
ただ今はその孤独という存在と向き合うのに精一杯だった。
彼の生きている昭和という年代は熱く、ピュアで泥臭く、
そして今彼を孤独が支配していた。
彼の支配者は、皮肉にも彼を少しずつ成長させていた。
それは母の胎内で胎児が育つのごとく
本当に目に見えぬほど少しずつ・・・・・
彼がいた時代でもここ西口は華やかであった。
しかし渋谷や新宿のような賑わいはなく
現在のように人をここで待つような
待ち合わせ場所には到底ふさわしくなかった。
彼の人生で初めてであった孤独は最初小さく
次第に大きくなっていった。
しかしそれは大きな、
そして新たな青春との出会いの胎動でもあった。
それは、まだ少しさき、
季節の変わる頃の話しとなる。
つづく
伊豆の空から
Posted by 伊豆の空 at 10:25│Comments(0)
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